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浦和地方裁判所 昭和59年(行ウ)10号 判決 1989年9月25日

川口市赤井一丁目二七番地一九号

戸田第一マンション三〇二号

原告

木村清

右訴訟代理人弁護士

難波幸一

川口市青木二丁目二番一七号

被告

川口税務署長

福田一雄

右指定代理人

林菜つみ

高橋孝二

中澤勇七

猿山利晴

玉木英一

玉田真一

松沢敏幸

村上昇康

三村明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五七年一二月一七日付でなした昭和五五年分所得税及び昭和五六年分所得税の各更正処分(昭和五五年分については裁決によって一部取消後のもの)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地のおいて建設・土木工事における土砂運搬を業とする者であるが、昭和五五年分及び同五六年分の所得税について別表一の各確定申告欄記載のとおりいずれも確定申告をしたところ、被告は同五七年一二月一七日付で別表一の各更正・賦課決定欄記載のとおり更正する旨の処分(以下、「本件各更正処分」という。)をなした。

2  そこで、原告は、本件各更正処分について、昭和五八年一月二四日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年四月一四日付で異議棄却の決定をしたので、原告は、さらに同年五月九日付で国税審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、同五九年五月二日付で、同五五年分の更正処分の一部を別表一の裁決欄記載のとおり取消し、同五六年分の審査請求については棄却する旨の裁決をし、右裁決は同年五月二四日原告に送達された。

3  しかし、原告の申告総所得額はいずれも正当なものであり、被告の行った本件各更正処分には正当な根拠がなく違法である。

4  よって、原告は、被告に対し、本件各更正処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

三  抗弁

1  本件推計課税の必要性

(一) 原告はいわゆる白色申告者であるが、昭和五五年分及び同五六年分の所得についての原告提出にかかる前記確定申告書には、事業所得金額の計算に必要な収入金額及び必要経費がなんら記載されておらず、単に所得金額及び専従者控除額が記載されているのみで、所得金額の計算内容が不明確であった。

(二) そこで、右各年分の所得について調査するため、被告所部係官が昭和五七年八月三〇日原告宅に赴いたところ、原告のほかに民主商工会員二名(以下、「会員ら」という。)が立ち会っている上、テープレコーダーがセットされていたので、会員らの立ち退きとテープレコーダーの排除を求めたが、原告及び会員らはこれに応ぜず、また、係官は原告の所得内容の確認をしたい旨申し出たが、原告はこれに応じなかった。

(三) その後も、右係官は、数回にわたり電話で、原告に対し調査に協力を求めたが、原告はこれに協力しなかった。

(四) 右のような状況であったので、被告は本件係争各年度の所得金額を実額で把握することは不可能であると判断し、被告の反面調査によって判明した収入金額を基礎として本件係争各年分の原告の所得金額を推計によって算出して、本件各更正処分を行った。

2  本件推計課税の合理性

被告は原告の係争年分の事業所得金額を所得税法一五六条の規定に基づき推計によって算定した。その算定根拠は、それぞれ次のとおりであるから合理的であり、本件各更正処分にかかる所得金額(昭和五五年分については裁決によって一部取消後のもの)を上回るから本件各更正処分は適法である。

(一) 昭和五五年分の事業所得 金六七四万八二九七円

(1) その内訳は次のとおりであり、その詳細は(2)以下のとおりである。

<1> 総収入金額 金二九三二万〇三三五円

<2> 同業者の平均所得率 二四・三八パーセント

<3> 事業専従者控除前の所得金額(<1>×<2>) 金七一四万八二九七円

<4> 事業専従者控除額 金四〇万〇〇〇〇円

<5> 事業所得の金額(<3>-<4>) 金六七四万八二九七円

(2) 総収入金額 金二九三二万〇三三五円

内訳は別表二のとおりである。

(3) 同業者の平均所得率 二四・三八パーセント

原告の事業所得金額(総収入金額から必要経費-ただし、昭和五九年法律五号改正前所得税法五七条三項に規定する事業専従者控除を除く-を控除した金額)を推計するのに必要な総収入金額中に占める事業所得金額の割合(所得率)は次に述べる方法により算出した原告の同業者の平均所得率を適用した。

ア 同業者の抽出及び基礎係数

原告の住所地を所轄する川口税務署管内の個人事業者で、次の<1>ないし<4>のいずれの条件をも満たす者(以下「同業者」という。)を抽出して、その所得率を計算し、これを原告の所得率を算出するための基礎係数とした。

その計算の具体的内容は別表四(1)のとおりである。

<1> 昭和五五年中において暦年を通じて特定貨物自動車運送業を継続している者で、年の中途において開廃転業等業態の変更のない者であること。

<2> 青色の申告書を提出している者でしかも昭和五五年分所得税青色申告決算書を提出している者であること。

<3> 所得税青色申告決算書の総収入金額が、原告の総収入金額の約〇・五倍以上約二倍以下である者であること。

<4> 右<1>ないし<3>に該当する者で、税務署長から更正又は決定処分を受けた者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者並びに当該処分に対して不服申立を行い現在審理中の者又は訴訟係属中の者のいずれにも該当しないこと。

イ 所得率の平均値を求める計算

前記アにより抽出した別表四(1)に掲げる基礎係数を単に算術平均して平均値を求めても、その基礎係数の中に異例な値が含まれていれば、これをもって適正な平均値とはいえないので、次のとおり統計学上一般に認められている方法を用いてその異例値を除外し、適正な平均値を求めた。

すなわち、基礎係数の算術平均(二六・二五%)を求めてその数値と各基礎係数との開差(いわゆる偏差)を算出し、これをそれぞれ自乗したものを算術平均して得た数値を平方に開いて算出所得率の標準偏差(五・七一%)を求め、これに統計学上一般に用いられている係数一・五を乗じて限界値(八・五六%)を求め、更に基礎係数の算術平均値に右の限界値を加算若しくは減算することによって、適正な平均値を得るための有効な基礎係数の上限(三四・八一%)及び下限(一七・六九%)を求め、その範囲内にある五名の同業者の基礎係数に基づいてその平均値(二四・三八%)を算出し、この数値をもって同業者の平均所得率とした。

その具体的計算内容は、別表四(2)、(3)のとおりである。

(4) 事業専従者控除前の所得金額 金七一四万八二九七円

右金額は前記(2)で述べた原告の総収入金額二九三二万〇三三五円に前記(3)の同業者の平均所得率二四・三八パーセントを乗じて算出した。

(5) 事業専従者控除 金四〇万〇〇〇〇円

原告の事業に従事している親族(原告の妻光江)に係わる事業専従者控除額である。

(二) 昭和五六年分の事業所得 金四五九万六一七一円

(1) その内訳は次のとおりであり、その詳細は(2)以下のとおりである。

<1> 総収入金額 金一九八四万一八二五円

<2> 同業者の平均所得率 二五・一八パーセント

<3> 事業専従者控除前の所得金額(<1>×<2>) 金四九九万六一七一円

<4> 事業専従者控除額 金四〇万〇〇〇〇円

<5> 事業所得の金額(<3>-<4>) 金四五九万六一七一円

(2) 総収入金額 金一九八四万一八二五円

前記(一)(2)と同様の方法によって算出したものであり、その内容は、別表三のとおりである。

(3) 同業者の平均所得率 二五・一八パーセント

前記(一)(3)と同様の方法により算出したものであり、その算出方法は以下のとおりである。

ア 同業者の抽出及び基礎係数

前記(一)(3)アと同様の方法により抽出した同業者について、その所得率を計算し、これを原告の所得率を算出する基礎係数とした。その計算の具体的内容は別表五(1)のとおりである。

イ 所得率の平均値を求める計算

前記(一)(3)イと同様の方法により算出した。その計算の具体的内容は、別表五(2)、(3)のとおりである。

(4) 事業専従者控除前の所得金額 金四九九万六一七一円

前記(一)(4)と同様の方法により算出した。

(5) 事業専従者控除 金四〇万〇〇〇〇円

原告の事業に従事している親族(原告の妻光江)に係わる事業専従者控除額である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)のうち、原告が白色申告者である点は認める。同(二)は認め、同(三)は認否、同(四)は争う。被告主張の事由は調査の必要性を認めるに足りるものではなく、また、調査理由を開示しない違法不当なものである。加えて、会員らの立会を認めず、その立会を理由に調査を打ち切ったのであるから、推計課税の必要性があったとはいえない。

2  抗弁2冒頭の主張及び同(一)(1)は争う。

同(2)の総収入金額のうち、別表二の順号4、7、11、ないし13、および15ないし19は全額否認し、同6のうち二八〇〇〇〇円を、同8のうち四〇〇円を、同9のうち五〇〇円を否認し、その余は認める。

同(3)の主張は争う。

同(4)の主張は否認する。

同(5)は認める。

3  抗弁2(二)の冒頭及び同(1)は争う。

同(2)の総収入金額のうち、別表三の順号28、30は全額否認し、同1のうち三〇九二五〇円、同6のうち二六四〇〇円、同7のうち二五〇〇〇円、同9のうち二三三〇〇〇円、同10のうち三九〇〇円、同12のうち六〇〇円、同15のうち五〇〇〇〇円、同17のうち六八〇〇円、同20のうち二〇〇〇円、同22のうち七六〇〇〇円、同23のうち八八〇〇円、同25のうち一八八〇〇円、及び同28のうち五六〇〇〇円を否認し、その余は認める。

同(3)の主張は争う。

同(4)の主張は否認する。

同(5)の主張は認める。

五  抗弁2についての原告の反論

1  (推計の不当)

被告の推計課税の基礎とされた同業者は、原告とは業態を異にするものであり、これを基礎とする平均所得率は原告に適用されるべきものではない。

原告の営業形態は、トラック一台を有し、これを使用して自ら土砂を運搬しているものである。ただ、仕事が多いときには外注ということで、同業者に連絡してその力を借りるが、報酬は注文者からトラック一台につき一日当りいくらという形でもらった額をそのまま、外注先に支払うのである。ところが、被告は、このような実態をまったく無視し、形式的な基準で業者を選定し、平均所得率を求めて推計課税をしているのであり、その内容が実態に反し不合理である。

2  (実額反証)

原告の必要経費額は別表六の額を下ることはない。

必要経費の内訳は別表六のとおりである。

六  原告の反論(2実額反証)に対する被告の再反論

1  所得税法二七条二項は、「事業所得の金額は、その年中の事業所得にかかる総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」と規定しているところ、同法三七条一項によれば、事業所得にかかる経費であるというためには、売上原価その他当該総収入金額を得るために直接要した費用にあっては、「直接に要した費用」という点で当該年分の収入金額と個別に対応していることを必要とし、その年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用については、「業務について生じた費用」という点で当該事業の業務の維持、遂行上通常かつ一般的に必要と客観的に認められる費用であることを要するのであり、また「その年における費用」という点でその年(暦年としての期間)に対応していることを要するのである。すなわち納税者が所得の実額を主張して、課税庁の推計の合理性を争うには、収入金額がすべての取引先からの総収入金額であり、かつ経費の額がその収入と対応する経費であることをも立証しなけれはならないというべきである。けだし、そうでなけれは限定的に把握された売上金額から、経費についてのみ実額の総額を差し引く結果にもなりかねず、このようにして算出された金額が所得の実額でないことはもちろん、これに近似する数額にもならないことは明らかであるからである。

2  そして、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張することにより推計課税の違法性を主張する場合には、その主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきである。

右の点を踏まえて本件をみるに、原告の主張する収入金額は、被告の主張金額を認否しただけにすぎず、積極的に総勘定元帳、請求書、領収書等信頼できる原始資料に基づいて求めた真実の収入金額とはいえないばかりか、原告が認めるとした収入金額も原告の全収入金額の一部にすぎない。また、原告が提出した資料は真実の収入金額を裏付ける原始資料として不充分なものである。結局、原告は、全収入金額を主張、立証せず、もっぱら必要経費に関する証拠を提出しているだけで、必要経費についての実額反証をしているというにすぎない。このような収入金額の一部の主張と経費のみの実額反証では、前述のとおり算出された金額が所得の実額でもなく、これに近似したものでもないのであるから所得の額を前記のとおり推計により算出したことの合理性を否定することはできないというべきである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証等目録および証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件推計課税の必要性について判断する。

1  抗弁1(一)のうち、原告の昭和五五年度及び同五六年度(以下、「本件各係争年度」という。)の確定申告書には収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の計算内容が不明確であったことは、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

2  また、証人出澤睦雄の証言によれば、次の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和五七年八月二日、当時被告所部係官であった出澤睦雄(以下、「出澤」という。)が原告宅を訪れ、所得税の調査に来たことを告げたところ、原告から「後にして欲しい」と言われ、同月一〇日に再度訪問することにし、調査に必要な書類として売上経費に関する請求書、納品書、領収書等を用意するよう依頼した。

(二)  同月九日に出澤のもとに原告から電話で、「八月一〇日は都合が悪いので九月初めにして欲しい、八月末に原告から連絡する」旨の連絡を受けた。

(三)  そこで、出澤は九月では先すぎるので、八月一一日原告宅に電話をかけ、原告の妻に翌一二日に電話をかけて欲しい旨の伝言を頼んだが、原告からは連絡がなかったので、再び一三日に電話をかけて欲しい旨の伝言を原告の妻に頼んだ。

(四)  そして、同月一三日原告から電話で、八月中は都合が悪いとの申し入れがあったので、出澤は九月二日に再度訪問することにした。

(五)  ところが、再び八月二四日に原告から電話があり、強い口調で「同月三〇日午後三時に来て欲しい」旨の申入れを受けたので、出澤は、原告と会うためには従前の経緯からみてその申し入れを受け入れるほかないと考えて、右日時に原告宅を訪問することとした。

(六)  出澤が、同所部係官川野一男を伴い、右日時に原告宅を訪れたところ、原告宅には、原告のほかに民主商工会員二名がおり、その場にはテープレコーダーがセットされていた。

そのため、出澤は立会人らの立ち退き及びテープレコーダーの排除を求めたが、原告及び右会員らはこれに応じなかった。

そこで、同証人は、原告の協力を得ることは不可能と判断して、原告宅での調査を断念した。

3  以上、2(一)ないし(六)の各事実によれば、被告の所得額調査に対する原告の非協力的な態度から、原告の係争各年度の所得金額を実額によって把握することは不可能であって、被告としては推計の方法によらざるを得なかったというべきで あり、推計課税の必要性があったと認めることができる。

4  これに対して、原告は、調査の必要性を争うが、前記各確定申告書の記載内容からして、右申告の真実性、正確性のついて調査の必要性があったことを認めることができる。

また、原告は調査理由の告知がないから、本件推計課税は違法である旨主張する。

しかし、証人出澤睦雄の供述によれば、原告の申告書には収入金額および必要経費の記載がないため調査に協力してほしい旨を原告に告げていることが明らかであり、右以上に調査理由を告知しなかったからといって権限のある税務署員に委ねられた質問検査権の行使についての裁量の範囲を逸脱した違法があったとはいえない。

したがって、調査理由の不告知を理由として本件推計課税の違法をいう原告の右主張も採用することはできない。

更に、原告は被告が法的根拠がないのに民商会員らの立会いを認めず、これを理由に調査を一方的に打ち切ったのであるから、本件推計課税の必要性があったとはいえない旨主張する。

しかし、そもそも税務調査に第三者が立会う権利を有するとか、納税者がその立会いを求める権利を有するとは解することはできないばかりでなく、かかる立会いを容認するときは、税務調査の守秘義務に反することにもなりかねないのであるから、本件において、被告所部係官が民商会員らの立会いに固執した原告の態度から所得金額を実額で把握するための調査の継続は不可能と判断してこれを打ち切ったことは違法とはいえず、したがって、右の点を理由として本件推計課税の必要性があったとはいえない旨の原告の右主張を採用することはできない。

三  次に、推計課税の合理性について判断する。

1  原告の昭和五五年度分の事業所得金額について

(一)  別表二の1ないし3、10、14、及び20の各収入額については当事者間に争いがない。

(二)  同表の4、5、7、8、及び15ないし19の各収入額は、成立に争いのない乙第八号証の一ないし四、第九、第一〇、第一一、第二二各号証、第二三号証の一ないし三、第二〇、第二一号証、第二六号証の一ないし三、第二四号証、第二五号証の一ないし三、及び第二八号証の一ないし五によって、それぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  同表の6、及び11ないし13の各収入額は、乙第四、第二、第五、第六号証(川口税務署長吉光慶郎作成部分の成立は当事者間の争いがなく、有限会社菅原土木、有限会社マルニシ、有限会社山本建材工業、及び株式会社日乃本福田龍義各作成部分は弁論の全趣旨によりそれぞれ真正に成立したものと認められる。)によってそれぞれ認めることができ、同表9の収入額は弁論の全趣旨によた成立の認められる甲第五八、第六二号証により認めれ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  してみると、原告の昭和五五年度分の総収入金額は、被告主張のごとく、別表二のとおりと認められる。

(五)  原告が建設・土木工事にどける土砂運搬を業とする者であることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第三〇、第三一、第三四、第三五号証、及び証人勝山学の供述によれば、被告は、前記第一の三2(3)ア主張の<1>ないし<4>のいずれの条件をも満たす特定貨物自動車運送業を営む者を抽出したこと、右抽出された者を基礎係数として別表四のとおり平均所得率を算出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、類似同業者の抽出についての基準、方法は合理的なものと認めることができ、その平均所得率により原告の当該年度の所得金額を算出することは相当というべきである。

そこで、右平均所得率を前記原告の昭和五五年度分の総所得金額に乗じ、これから当事者間に争いのない事業専従者控除額四〇万円を控除した金六七四万八二九七円が原告の事業所得金額と認められる。

2  原告の昭和五六年度分の事業所得金額について

(一)  別表三の2ないし5、8、11、13、14、16、18、19、21、24、26、27、及び29の各収入額は、当事者間に争いがない。

(二)  同表の6、9、10、12、17、20、22、23、25、及び28の各収入額は、成立に争いのない乙第一二号証の一ないし五、第七号証の一ないし六、第二七号証の一ないし九、第一三、第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六、一七号証、第一八号証の一ないし三、及び第一九号証によってそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

同表三〇の収入額については、証拠がない。

(三)  同表の1、7、及び15の収入額は、乙第一、第二、第三号証(川口税務署長吉光慶郎作成部分についてはその成立につき争いがなく、大野土建株式会社、有限会社マルニシ及び岩槻建設株式会社代表取締役石山満各作成部分については弁論の全趣旨によりそれぞれ真正に成立したものと認められる。)によってそれぞれ認定することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  とすると、原告の昭和五六年度分の総収入金額は、金一九八三万〇一二五円であると認められる。

(五)  前記1、(五)と同様に別表三のとおり平均所得率を算出したことが認められ、右平均所得率を用いて原告の当該年度の所得を算出することは相当であり、前記原告の昭和五六年度分の総収入金額一九八三万〇一二五円にこれを乗じて、更に当事者間に争いのない事業専従者控除額四〇万円を控除した金四五九万三二二五円が原告の当該年度の所得金額と認められる。

3  これに対して、原告は、被告の同業者の選定が形式的に過ぎ実態に反して本件推計課税は不合理である旨主張するが、被告が選定した同業者と原告との間に推計を不合理ならしめる程顕著な経費率の差異を生じさせるような特殊事情が存在することを認めるに足りる証拠はないので、原告の右主張は理由がない。

4  原告の実額主張について

原告は、必要経費は、昭和五五年度については金二五一八万三九四五円、同五六年度については金一三八〇万四二六二円を下らない旨主張する。

しかしながら、被告が反面調査によって把握したに過ぎない収入金額の合計から単に経費のみを実額で把握して差し引いた金額をもって原告の所得金額とすることは、右金額が真実の原告の所得金額と相違する蓋然性が高いことからすれば、原告は単に必要経費の実額を主張立証するのみでは足りず、右収入金額の合計が原告の総収入金額であること、すなわち、右収入金額のすべての取引先からのすべての取引についての収入金額であることをも具体的に主張立証しなければ被告主張の推計課税の合理性を覆すことはできないといわなければならない。

ところが原告は、営業の状況を記載した証拠として甲第七九号証の一ないし六、同八〇号証の一ないし六を提出しているが、甲第八〇号証の一は昭和五六年一月の曜日を訂正して、同五七年一月としてあり、そうだとすると同五六年一月分を欠くことになるなど、粗雑なものであるばかりでなく、右はいずれも一か月一枚の用紙に日毎に書き込みできるようになったカレンダーに雑多な書き込みがしてあるもので、原告本人尋問の結果によっても、単なるメモ程度に過ぎないものであって、到底原告の総収入金額を立証するに足りる証拠とはなしえないものである。そのほか原告の総収入金額についてはなんら主張立証がない。

したがって、原告の前記必要経費の実額主張によっては被告の推計課税の合理性を覆すことはできないといわなければならない。

四  以上によると、原告の昭和五五年年度の所得金額は被告主張のとおりと認められ、同年度の本件更正処分は適法である。また、同五六年度の所得金額は四五九万三二二五円の限度で認められ、結局同年度の更正処分(裁決によって一部取消後のもの)にかかる所得金額を上回るから、同年度の本件更正処分も適法である。

よって、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 熱田康明 裁判官 西郷雅彦)

別表一

1 昭和五五年分

<省略>

2 昭和五六年分

<省略>

別表二

昭和五五年分

<省略>

<省略>

別表三

昭和五六年分

<省略>

<省略>

別表四

昭和55年分

(1) 基礎係数及び標準偏差の計算

<省略>

(2) 限界値(上限・下限)の計算

<省略>

(3) 平均値の計算

<省略>

別表五

昭和56年分

(1) 基礎係数及び標準偏差の計算

<省略>

(2) 限界値(上限・下限)の計算

<省略>

(3) 平均値の計算

<省略>

別表六

必要経費

<省略>

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